【インタビュー】はんだ付け日本一が語る、現場で磨いた品質と世界への挑戦

IPCはんだ付けコンテスト2026日本大会で優勝した株式会社日立ビルシステムの藤枝裕之氏
IPCはんだ付けコンテスト2026日本大会で優勝した株式会社日立ビルシステム 藤枝裕之氏。

22年間、一つの仕事を愚直に続けてきました。
その積み重ねが、日本一という結果につながりました。

2026年、日本のはんだ付け技術者の頂点を決める「IPCはんだ付けコンテスト2026」日本大会で優勝した藤枝さん。しかし、本人が最も嬉しかったのは、自分が日本一になったことではありませんでした。

「これまで教えてくださった先輩方のやり方が正しかったことを、世の中に証明できたことが一番嬉しかったです。」

その言葉には、技能は一人で磨くものではなく、現場で受け継がれてきた技術の積み重ねであるという思いが込められていました。

1. 命を預かるものづくりだからこそ、「品質第一」

藤枝さんが所属する株式会社日立ビルシステム(勤務地:茨城県)は、エレベーター・エスカレーターをはじめとするビル設備やビルソリューションを提供しています。

製造現場では月産約6,000枚のプリント基板を製作しています。小型部品は自動実装されますが、機械では対応できない実装やリワーク、リペアは、今も熟練技能者による手作業が欠かせません。藤枝さんは基板製造とはんだ付けを中心に、若手育成や技術伝承にも携わっています。

現場で最も大切にしていることを尋ねると、迷うことなくこう答えました。

「私たちの仕事は人の命を預かる仕事です。だからまず品質を第一に考えています。」

藤枝裕之氏へのインタビューの様子
藤枝氏とインタビューの様子。

品質を支えるのは、一人ひとりの経験だけではありません。

同社では独自の品質基準を運用していますが、その基準は日頃からIPC規格を参考に整備・運用されています。藤枝さん自身も、普段の作業や品質改善、若手教育の中でIPCの考え方を取り入れており、IPCはコンテストのための基準ではなく、日常の品質づくりを支える共通言語となっています。

さらに、

  • 再現性のある作業
  • 不良の未然防止
  • コテ先温度の管理
  • コテ先の清掃
  • 作業手順の標準化

を徹底し、誰が作業しても同じ品質を実現できる仕組みづくりに取り組んでいます。

IPCはんだ付けコンテスト2026日本大会で使用された競技課題基板
IPCはんだ付けコンテスト2026日本大会で実際に使用された競技課題基板。藤枝氏はこの基板を用いて日本一を獲得しました。

2. 悔しさが22年間の技術を育てた

18歳で入社して以来、藤枝さんは22年間はんだ付け一筋で歩んできました。しかし最初から順調だったわけではありません。

「入社した頃は、はんだ量もばらついてしまい、先輩方には到底及びませんでした。」

その悔しさを原動力に、先輩の仕事を徹底的に観察し、技術を吸収しました。さらに作業基準だけでなくIPC規格も学び、自分自身の品質基準を磨き続けてきました。

若い頃には、熱を加え過ぎて基板を傷めてしまった経験もあります。この経験をきっかけに、温度管理や作業手順の標準化の重要性を強く意識するようになりました。

社外で自分の技術を試したかった

IPCはんだ付けコンテストを知ったのは、上司から勧められたことがきっかけでした。社内競技会が減少する中、自分の技術が他社でどこまで通用するのか確かめたいという思いがありました。

「自分のはんだ付けが世の中でどう評価されるのか、挑戦してみたかったんです。」

しかし初出場では大きな失敗を経験しました。自社で使用しているシルク表示とIPCコンテストの表示方法の違いを見誤り、LEDの極性を逆に取り付けてしまったのです。

さらに会場の雰囲気に飲まれ、

「手が震えて、練習の半分くらいしか力を出せませんでした。」

と当時を振り返りました。

IPCはんだ付けコンテスト日本大会の様子
はんだ付けコンテスト日本大会の様子。

3. 改善を積み重ね、日本一へ

前年の悔しさを胸に、藤枝さんは練習内容を徹底的に見直しました。極性確認を最重要課題とし、IPCの採点基準を意識して「減点されない品質」を目標に据えました。

競技では、

  • 前半のリワークは15分以内
  • 後半は品質重視
  • 最後に5分以上の清掃時間を確保

という時間戦略を立てて臨みました。

実際の競技では、リワークをわずか11分で完了しました。これはコンテスト事務局が確認した競技記録でも、多くの参加者が20分以上を要する工程を大きく上回るスピードでした。また、740点満点中723点を獲得しました。

このアドバンテージにより、極性確認やはんだ品質、最終清掃に十分な時間を確保することができ、日本大会優勝へとつながりました。

それでも本人は満足していません。競技映像を見返し、

「作業台が散らかっていて、少し動きに無駄がありました。」

と冷静に振り返る姿勢が印象的でした。

藤枝氏が設計・製作したIPCトレーニング基板
藤枝氏が設計・製作したIPCトレーニング基板。大会対策として既存教材を使うのではなく、自ら課題を分析し、社内部品を活用して練習基板を設計・製作しました。
反復練習に使用した練習基板
反復練習に使用した練習基板。何枚もの基板で練習した努力が伺えます。

4. 管理職になっても挑戦を続ける理由

実は大会への申し込み後、藤枝さんは管理職へ昇進しました。業務が増え、十分な練習時間を確保することは容易ではありませんでした。それでも挑戦を続けた理由は、自分自身のためだけではありません。

「後輩にいい背中を見せられたと思います。」

実際、社内では「私も挑戦したい」という若手が現れ始めたといいます。挑戦する姿勢そのものが、次世代育成につながっています。

日本大会優勝の反響は社内にとどまらず、全国ネットのテレビ番組からも取材を受け、本年度内の放送が予定されています。

日本大会優勝トロフィーと社内展示
日本大会優勝トロフィーと社内展示。

5. 次なる舞台は世界大会と次世代の育成

次の目標は、2026年11月にドイツ・ミュンヘンで開催されるIPC世界大会で、日本代表として世界各国の優勝者と競い合うことです。世界大会では、さらに小型の部品が採用され、より高いスピードと精度が求められます。藤枝さんは世界のトップレベルと競い合えることを楽しみにしています。

「スピードと精度。この二つをもっと高めていきたい。目指すのは優勝です。」

昨年開催されたIPC世界大会の様子
昨年開催された世界大会の様子。世界中からはんだ付けのトップ技術者が集結してスキルを競いました。

技術を次の世代へ

同社では、新卒から約10年をかけて段階的に技能を習得する育成を行っています。管理者が一人ひとりの技能レベルに応じて教育計画を立て、簡単な作業から認定を与えながら少しずつ難易度を上げていきます。

さらに今回の挑戦をきっかけに、コンテストへの挑戦を人材育成の仕組みとして活用することも検討しています。

技術は競い合うことで磨かれ、挑戦は次の挑戦者を生み出します。その好循環が、ものづくりの未来につながっていきます。

社内に掲示された優勝記事
社内掲示された優勝記事。

挑戦することに意味がある

日本一となった今も、藤枝さんは現状に満足していません。目指すのは「減点ゼロ」の技術。そして、

「はんだ付けなら藤枝だ、と誰からも信頼される技能者になりたい。」

最後に、これから技術者を目指す人たちへ、こんなメッセージを送ってくれました。

「挑戦の過程で得られるものは本当に大きいです。前向きにチャレンジすることが一番大事だと思います。」

世界への挑戦は、すでに始まっています。その歩みは、自らの技術を磨くだけではなく、次世代へ技術を受け継ぎ、日本のものづくりを支える未来へとつながっていきます。

Profile

藤枝裕之氏
藤枝 裕之

株式会社日立ビルシステム

2004年入社

生産本部 製造部 電機品制作課 組長

IPCはんだ付けコンテスト2026日本大会優勝

2026 IPC World Championship 日本代表

IPC J-STD-001 CIS、IPC-7711/7721 CIS

藤枝裕之氏が取得したIPC認証資格 J-STD-001とIPC-7711/21
取得したIPC認証資格。J-STD-001とIPC-7711/21。