トヨタ自動車

トヨタ自動車、はんだ外観基準にIPCを採用

社内基準にIPCを加えた新技術標準で、さらなる世界展開へ

トヨタ自動車は、2021年に新たに作成したトヨタ技術標準(TS)で、はんだ外観基準について、はんだと実装技術の国際品質標準であるIPCを正式に採用。それまでの社内基準からIPCを核とした新しいはんだ外観基準を作り上げました。その目的と背景、狙いについて制御電子システム開発部のご担当者様に話を伺いました。

社名 トヨタ自動車株式会社 (TOYOTA MOTOR CORPORATION)
創立 1937年8月28日
売上高(連結) 29兆9,300憶円 (2020年度)
従業員数(連結) 74,132人(連結 359,542人)点
事業内容 自動車の生産・販売
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社内基準にIPCを採用するまでの経緯

トヨタ自動車株式会社
制御電子システム開発部

開発プロセス・品質改革室
石川 昌広様

電子性能開発室
西森 久雄様

おふたりの社内での役割について教えてください

私たち2人はトヨタ社内では設計側の立場となります。開発プロセス・品質改革室は、設計品質全般を見ており、その立場で”はんだの外観基準”の社内基準を担当しています。電子性能開発室は、電子部品の評価品質を開発している部署にあり、”はんだの耐久試験”の試験法の開発を担当しています。一方で、”はんだの製造品質”に関しては、品質保証部が管轄しています。
今回は、設計や部品評価の立場から管理をしている、「はんだ付けの品質に関わる外観基準」についてお話し致します。

これまではんだの品質確保はどのように行われていたのですか

はんだ付けは、品質における信頼性の重要なポイントと認識していて、30年以上前からトヨタ社内の信頼性基準を持っています。それを逐次改訂しながら、はんだに対する信頼性、設計品質を担保してきました。
トヨタでは、サプライヤ様に対して要求仕様を発行し、それを元に製品を開発・納入していただき、はんだの製造品質の確認は、本社や各工場の品質保証部が行なっています。
はんだの品質確保については、設計段階からの信頼性と製造品質の2本の柱があり、そのトータルで品質を確保してきました。

しかし、グローバル化に伴い、海外サプライヤ様とのビジネスが拡大する中で、品質保証部や工場の品質管理部門が、新しいサプライヤ様に対して工程品質を確認する際、「トヨタが要求していない項目については開示できない」という課題が出てきました。

そこで2010年以降、品質保証部と私たちが議論して、仕事の仕方を変えてきました。サプライヤ様に対して、設計から要求仕様を発行していますが、そのなかで、「はんだの信頼性に加え、外観基準も開発時に要求する」というプロセスに変更しました。

その際に作成した基準はどのようなものだったのですか?

トヨタのなかに電子部品を設計して組み立てる工場を持っていたので、そこで使用しているはんだ外観基準をベースに、JISやIPCと見比べながら作成していました。しかし、いざ発行してみると、様々なサプライヤ様から「この基準はIPCとの関係性はどうなっているのか?」という問い合わせが多くありました。

その時に、自動車業界のなかでもIPCがかなりのデファクトスタンダードになっていることを改めて理解し、IPCの610を確認するような形で改訂をすることを検討し始めました。私たちもなるべく世の中の共通の基準を使っていこうという方針となり、J-STD-001IPC-A-610Automotive
Addendum(自動車・車載用途向け追加規格)
を発行したことに合わせて、2021年2月にIPCを参考にした、はんだ外観基準のトヨタ基準を発行しました。

IPCを取り入れた新しいはんだ外観基準 サプライヤ様からも歓迎の声

自動車業界も変革期にあるなか、IPCを採用した理由について教えてください

以前からはんだ外観基準については、IPCベースなのか、トヨタ内製がもとになっているか、それともJISを採用しているかで、似た内容や条件でも、受け取られ方がかなり違っていました。グローバル化が進む中で、世界の共通言語としてIPCが世界の自動車産業でデファクトスダンダードになっており、採用した方が効率的だと判断しました。IECもIPCを元として成り立っていることも大きかったです。

IPCを取り入れたことに対して社内外、海外拠点などの反応はどうでしたか?

IPCを核とした新しいトヨタ技術標準を作成して社内に展開し、今はそこから社外へと徐々に伝わって認知されている状況です。主要なサプライヤ様からは、IPC基準に沿ったトヨタ技術標準(TS)に変えるということに対して、非常に前向きな回答をいただいています。TSは、サプライヤ様の必要に応じて、要求して頂くと開示することが可能です。それを見ていただいて理解して頂く形になっています。

新たな技術標準で効率的な品質管理の実現を目指す

トヨタ品質要件とIPC要求条件の違い、差分はどのようなものがありましたか

例えば、はんだボールでは、IPCでは固定されていれば許容可能という条件になっています。しかし、自動車は極寒や高温多湿下など、様々な環境で長期にわたる使用が想定されています。コーティングだけでの固定では、車両を使用される期間の最後までコーティングで固定されているかどうかまでは保証できません。そのため、仮に固定が取れたらどうなるかなど、IPCの条件に対する補足をトヨタの技術標準には追記しました。

初期に固定されていればOKというような基準だけでは、基準を守れば良いという考え方になり、チェックリストに○と×をつけて終わる可能性があります。そうならないように、最終的に担保しなければならない製品品質を目標として、これまで通りサプライヤ様と相談して合意しながら作っていく形が前提です。

新たな品質基準を作ったことで国内外のサプライヤーへ期待することは?

グローバルなサプライヤ様では、トヨタからは独自の基準を求められ、それ以外のOEMからはIPC基準を求められることがあり、その差異で手間がかかる部分があったのかなと思います。今回トヨタがIPCを採用させていただくことで、すべてのサプライヤ様が効率的に、はんだの品質管理ができるようになればと思っています。

また、100年に一度の変革期、CASE対応などで、トヨタも従来以上に新しいサプライヤ様とお付き合いする可能性が増えてくると思っています。そういう場合に、共通言語としてIPCを使うことで、品質管理の確認を早期かつ効率的に、お互いに行えるようになるのではないかと期待しています。

CASEで変わる時代、IPCを共通言語にサプライヤ様との新しい関係を

日本にはIPCになじみのない企業もまだたくさんあります。最後に今回のまとめと、そうした企業に向けてアドバイスやメッセージなど

トヨタ内製の基準をサプライヤ様に展開する時には、IPCとの関係性を質問されることが多々ありました。また、これまでは車載向け半導体や、車載部品を作っているサプライヤ様を採用してきました。今回、IPCを採用したことで、サプライヤ様は、グローバルレベルの製造品質の確認が効率的にできるようになります。結果、サプライヤ様とWin-Winの関係が構築できればと思います。

100年に一度の変革期、CASEになり、私たちの知識と経験だけでは追いつかないような時代になっています。そこで私たちもIPCのグローバルネットワークの仲間に入れていただくことで、最新情報を取り入れながら、様々な技術をトヨタ車に実装できるようにしていきたいですね。

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