電子基板は結露すると壊れる?水分量・時間・構造から考える故障リスク

IPCオートモーティブセミナー2026
電子制御ユニット(ECU)の結露耐性に対する定量的アプローチ
結露は必ずしも故障を意味しない
講演者:Udo Welzel氏・Robert Bosch GmbH
当日参加できなかった方へ、「IPC Works ASIA 2026 オートモーティブセミナー」で、BoschのUdo Welzel氏が取り上げた「結露は必ずしも故障を意味しない」というテーマを、資料と図解で読み解きます。車載ECUの結露リスクを、水分量・時間・部品構造から評価する考え方をご紹介します。
この記事でわかること
車載ECUの結露リスクを、次の3つの視点から解説します。
- 結露と故障の関係 — 水分が電子基板の絶縁性能に影響する仕組み
- 実車環境と試験結果 — 水分量・持続時間・部品構造による違い
- リスクの定量評価 — 水滴の分布と温度条件を信頼性設計に活かす考え方
電子機器にとって、水分は大敵だと考えられています。スマートフォンを水に落としたり、電子機器の内部に水が入り込んだりすると、故障する可能性があります。電子基板に水滴が付くことも、一般的には避けるべき現象です。しかし、電子基板に水滴が付いたからといって、必ずしも直ちに故障するわけではありません。水分がどの程度付着しているのか、どのくらいの時間残っているのか、どのような電圧がかかっているのか。さらに、基板上の部品の形状や配置によっても、故障の危険性は変わります。
自動車に搭載される電子制御ユニット(ECU)は、高温、低温、湿気、振動など、さまざまな環境にさらされます。近年では、自動車の電動化や電子制御の高度化に伴い、ECUの高性能化や高電圧化が進み、内部を液体で冷却するシステムも登場しています。こうした変化により、従来とは異なる温度や湿度の条件がECU内部に生じる可能性があります。
Robert Bosch GmbH(Bosch)の研究では、実際の自動車環境で発生し得る結露の量や持続時間を調べ、電子基板の絶縁性能にどのような影響を与えるのかを実験によって評価しています。本記事では、講演「結露は必ずしも故障を意味しない:電子制御ユニットの耐結露性に関する定量的手法」をもとに、結露によって電子機器が故障する仕組みと、そのリスクを科学的に評価する方法について、専門知識がない方にもわかりやすく解説します。
実車の環境を
測る
結露させて
確かめる
水のつながりを
予測する
1. なぜ次世代の自動車では、結露が問題になるのか?
そもそもECUとは?
ECU(Electronic Control Unit)は、自動車に搭載される電子制御装置です。エンジン、ブレーキ、バッテリー、モーターなどの動作を制御する、小さなコンピューターのような役割を果たしています。その内部には、半導体やコンデンサなどの電子部品を搭載したプリント配線板(PCB)が組み込まれています。
車載ECUの内部にある電子基板。その表面に水滴が付いたら?
車載ECU
車の機能を制御するコンピューター
水滴が付いたPCBA
部品を実装した電子基板
従来のECUは、比較的限られた機能を制御するものが中心でした。しかし近年では、高速な信号処理や複雑な演算、大きな電力を扱う機能が求められています。
紹介された次世代ECUの例には、470V、850V、1200Vといった高電圧回路や、液体による冷却機構を備えたシステムがあります。これらは講演で示された例であり、すべてのECUの動作電圧を示すものではありません。また、電子機器に求められる稼働時間が、従来の約5,000時間から最大130,000時間へと大幅に増加するケースも示されています。
高性能化によって発熱量が増える一方、冷却によって局所的に温度の低い部分が生じることもあります。そこで重要になるのが「結露」です。
結露とは? 冷たいコップに水滴が付くのと同じ現象
冷たい飲み物を入れたコップを、暑くて湿度の高い部屋に置いたことはないでしょうか。しばらくすると、コップの外側に小さな水滴が付着します。これは、空気中に含まれる水蒸気が冷たいコップの表面で冷やされ、液体の水に変わるためです。この現象を「結露」と呼びます。

結露を分けるのは、湿度だけでなく表面の温度
露点より温かい表面
結露しない場合がある
露点より冷たい表面
水滴が生じる可能性がある
空気中の水蒸気が結露し始める温度を「露点」といいます。周囲の空気に水分が多く含まれていても、表面温度が露点より高ければ、必ずしも結露するわけではありません。電子機器の内部でも同じことが起こります。例えば、ECU内部の一部分だけが液体冷却によって冷やされると、その部分の表面温度が露点を下回り、水滴が発生する可能性があります。つまり、周囲の湿度だけでなく、基板や部品の表面温度も重要になるのです。
従来のECUと液冷式ECUでは条件が異なる
一般的なECUでは、電子部品が動作することで熱を発生するため、基板表面の温度が周囲より高くなり、結露しにくい場合があります。実際の車両を使った温湿度測定でも、従来型ECUの内部では結露が確認されなかった条件が報告されています。
一方、液冷式の高性能ECUでは、冷却機構によって局所的に温度の低い部分が生じる可能性があります。このような場所は「コールドスポット」と呼ばれます。
そのため、次世代ECUでは、単純に外気温や湿度を調べるだけでなく、ECU内部のどこが冷たくなり、どの程度の水分が集まるのかを考える必要があります。
2. 水分によって電子基板が故障する仕組み
電子基板には、電気が流れる金属配線と、電気を流さない絶縁材料が組み合わされています。正常な状態では、電気は設計された配線を通って流れます。しかし、湿気や水分が加わると、本来電気が流れてはいけない場所に電流が流れたり、金属が腐食・移動したりする可能性があります。ここでは、代表的な故障現象を紹介します。
① ECM:基板表面で金属が移動し、短絡する現象
水滴が「ある」と「つながる」は違う
水滴が離れている
導体間を連続してつながない
水の経路がつながる
漏れ電流やECMの条件になり得る
水の経路ができることと、金属のデンドライトによる短絡は別の段階です。
ECM(Electrochemical Migration:電気化学的マイグレーション)は、水分と電圧の影響によって金属が移動し、電極間の短絡を引き起こす現象です。
ECM:水分を介し、表面に金属の橋が育つ
01
水分が付く
02
金属が溶出
03
水中を移動
04
陰極で析出
05
成長して短絡
例えば、電子基板上には銅などで作られた細い配線が多数あります。これらの配線は、互いに接触しないように配置されています。ところが、配線の間に水分が存在し、電圧が加わると、金属の一部がイオンとなって水分中に溶け出す場合があります。溶け出した金属イオンは水分中を移動し、反対側の電極で金属として析出することがあります。
この金属が成長すると、木の枝のような形になります。これを「デンドライト」と呼びます。デンドライトが隣り合う配線をつないでしまうと、本来つながってはいけない回路の間に電気が流れ、短絡する可能性があります。
説明用生成イメージ
ECMは、基板表面の水分が関係する代表的な絶縁不良の一つです。ただし、水滴が存在するだけで直ちにECMが発生するわけではありません。水分の状態、電圧、配線間隔、金属材料、表面の汚染状態、時間など、さまざまな要因が関係します。
② CAF:基板内部で導電性の経路が成長する現象
CAF(Conductive Anodic Filament:導電性陽極フィラメント)も、水分と電圧に関連した絶縁不良の一つです。ECMとの大きな違いは、現象が発生する場所です。ECMが主に基板の表面で発生するのに対し、CAFは基板の内部で発生します。
CAF:基板内部に成長する、細い導電経路

左右の穴の壁は銅めっき、その間はガラス繊維と樹脂からなる絶縁材料です。中央の細い茶色の筋は、内部の界面に沿って成長する導電経路を表しています。
説明用生成イメージ(実際の試料を撮影したものではありません)
一般的なPCBの絶縁材料には、ガラス繊維と樹脂を組み合わせた材料が使用されています。水分や熱などの影響で材料内部が劣化すると、ガラス繊維と樹脂の界面などに、水分が入り込む経路ができることがあります。電圧が加わると、この経路に沿って導電性の物質が成長し、離れている導体同士をつないでしまう可能性があります。表面からは異常が見えにくいため、CAFは電子基板内部の絶縁信頼性に関わる重要な故障現象です。また、CAFは突然発生するというよりも、絶縁材料の劣化が時間をかけて進み、その後に導電性の経路が成長する場合があります。
このため、材料の種類や品質、製造工程、温度、湿度などが長期信頼性に影響します。
③ フラッシュオーバー:高い電圧によって表面で放電する現象
もう一つの故障モードが「フラッシュオーバー」です。これは、高い電圧によって、絶縁材料の表面に沿って放電が発生する現象です。
フラッシュオーバー:絶縁材料の表面に沿って放電する
細い発光部分が、導体間の絶縁材料の表面に沿う放電を表しています。発生は、電圧・導体間距離・周囲の気体や材料の状態などに影響されます。
説明用生成イラスト
例えば、電気が流れていない空気中でも、非常に高い電圧がかかると火花が飛ぶことがあります。電子基板でも、高い電圧がかかると、隣り合う導体の間で放電が起こる可能性があります。こうした放電は、電圧の大きさや電極間距離、周囲の気体や絶縁材料の状態などに影響されます。次世代ECUの高電圧化に伴い、低電圧回路で問題となるECMだけでなく、フラッシュオーバーなどの放電現象にも注意する必要があります。
④ その他の内部絶縁劣化
高電圧回路では、CAF以外にも、材料内部の陽極マイグレーションや、交流・パルス電圧に関連するツリー現象などが問題になる場合があります。これらは、絶縁材料の内部に損傷や導電経路が形成される現象です。つまり、電子基板の絶縁不良には複数の種類があり、水分の有無だけで故障リスクを判断することはできません。
3. 実際の自動車では、どのくらい結露が発生するのか?
高温高湿の環境でも、必ず結露するわけではない
湿度の数字に加えて、「水分がどう供給されるか」を見る

含まれる水分
供給され続ける水分
水分供給の違いを示す概念図。実際のECUでは、ハウジングや材料の吸湿・放湿なども関係します。
電子機器の信頼性試験では、高温高湿の環境に製品を置き、湿気への耐性を調べる方法が一般的に用いられています。しかし、試験装置の内部と実際の自動車環境は、必ずしも同じではありません。例えば、恒温恒湿槽では、設定された湿度を維持するために水分が継続的に供給されます。一方、自動車のECU内部では、ハウジングの構造や材料の吸湿・放湿、電子部品の発熱などによって、局所的な湿度が変化します。また、空気中の水蒸気の量には限りがあります。
講演では、8℃、相対湿度95%という高湿度条件でも、対象とする空気量に含まれる水分が約4µLである一方、比較例として水滴1個が50µLであることが示されています。つまり、空気の湿度が95%だからといって、基板表面に大量の水滴が発生するとは限らないのです。どれだけの水分が存在するか、また、その水分がどのように供給されるかが重要になります。
液冷式ECU内部の温度と湿度を測定する
次世代ECUでの結露の可能性を調べるため、液冷式の車載コンピューターを対象とした試験が実施されています。
この試験では、1000Wの電力損失を伴う動作条件などを設定し、ECU内部の温度と湿度の変化を測定しています。測定には、22個の熱電対と17個の温湿度センサーが使用されています。
熱電対は温度を測定するセンサーです。また、温湿度センサーは、温度と空気中の相対湿度を測定します。これらのセンサーを使うことで、ECU内部のどこが温まり、どこが冷え、どこで湿度が上昇するのかを詳しく調べることができます。測定の結果、基板などの材料から放出された水分の影響で、局所的に湿度が高くなる場所があることが確認されています。こうした結果は、電子機器全体の平均的な温湿度だけではなく、内部の局所的な環境を把握する重要性を示しています。
研究で導いた結露負荷シナリオ「1mg/cm²、10分間」
実際の車両環境の測定やシミュレーションをもとに、研究では一つの合理的な結露負荷シナリオが導き出されています。それが、1mg/cm²の結露が10分間発生するという条件です。
結露負荷は「量」と「時間」の組み合わせ
1mg/cm²
面積あたりの水分量
10分間
想定した結露の持続時間
この研究で導出したシナリオです。すべてのECUに共通する安全限界ではありません。
1mg/cm²とは、1cm×1cmの面積に、1ミリグラムの水が付着することを意味します。水の密度を考えると、1ミリグラムはおよそ1マイクロリットル(µL)に相当します。これは非常に少ない量ですが、電子基板上の細い配線間隔を考えると、無視できるとは限りません。一方で、この条件は水滴が大量に付着した状態とは異なります。また、結露が発生している時間も重要です。
研究で示された高湿度の状態は、6〜12分間程度の比較的短い時間でした。なお、シミュレーションでは特定の開放型ハウジング条件で、相対湿度98%以上かつ通電状態となる事象をユーザーが年間1回経験する確率が45%と予測されています。
この45%は高湿度事象を経験する確率であり、ECUが故障する確率ではありません。ここで重要なのは、単に「結露するかどうか」ではなく、どれだけの量の水が、どれくらいの時間存在するのかを定量的に評価することです。
4. 結露の量を変えて、電子基板の耐性を調べる
結露の量を一定にするのは意外と難しい
電子基板の結露耐性を正確に調べるには、基板表面に付着する水分量を制御する必要があります。しかし、一般的な気候試験装置では、結露が発生し始めると、水分が次々に供給され、表面に水が蓄積することがあります。また、水には表面張力があるため、均一な薄い水膜として広がるのではなく、小さな水滴になることもあります。そのため、単純に温度と湿度を設定するだけでは、一定の結露量を再現することが難しいのです。
冷却板を使って、結露量をコントロールする
基板を載せた冷却板を冷やし、表面に結露を起こす
-
上の緑色:試験基板
表面に付く水分とSIRを評価する -
下の青灰色:冷却板
基板を取り付け、温度を調整する -
表面が露点より低くなる
基板表面に結露が発生する
装置の関係を示す模式図。基板と冷却板は重ねて45°に設置されます。空気の温湿度と印加電圧などの試験条件は、下の表で確認できます。
この問題に対応するため、基板の表面温度を調整できる冷却板を使った試験方法が採用されています。仕組みは比較的シンプルです。温度と湿度を調整した試験槽の中に電子基板を置き、基板の下に設置された冷却板によって表面温度を下げます。すると、基板表面の温度が露点を下回り、結露が発生します。冷却温度を調整することで、発生する結露の程度を変えることができます。試験では、冷却板を約45度に傾け、基板を取り付けています。主な試験条件は以下のとおりです。
| 試験項目 | 条件 |
|---|---|
| 試験槽温度 | 40℃ |
| 相対湿度 | 81〜88% |
| 結露レベル | 8段階 |
| 試験時間 | 48時間 |
| 印加電圧 | 1V、2V、5V、15V、50V |
| 電気抵抗の測定間隔 | 5分 |
評価には、さまざまな電子部品や配線パターンを搭載したIPC-B52 PCBAという試験用基板が使用されています。この基板によって、部品の種類や配線形状による違いも調べることができます。
結露量を8段階に分けて評価
試験では、結露の程度をレベル1からレベル8まで、8段階に分けています。レベル1は結露負荷が低い状態で、レベルが高くなるにつれて基板表面の水分量が増えていきます。
実際の結露量は、試験片の重量変化などによって評価されています。ここで重要なのは、「湿度が何%か」だけではなく、「実際に基板表面にどれだけの水が付着したか」を測定していることです。
これによって、水分量と電気的な絶縁性能の関係を調べることができます。
L1からL8へ、水分量を増やして評価する
出典:Bosch P18。片面面積140cm²の試験片を用い、バイアスをかけずに行った独立の負荷試験の測定例です。これは付着した水分量であり、故障確率ではありません。
SIRとは? 電気が流れてはいけない場所の抵抗を測る
結露した基板の状態を調べるために、SIR(Surface Insulation Resistance:表面絶縁抵抗)という指標が使用されています。これは、本来電気が流れてはいけない導体間で、どれだけ電気が流れにくいかを表す値です。
SIRは、電気が漏れにくいかを見る指標
抵抗が高い
漏れ電流が少ない
抵抗が低い
漏れ電流が増えやすい
例えば、隣り合う2本の配線が十分に絶縁されていれば、その間にはほとんど電流が流れません。このとき、絶縁抵抗は非常に高い値になります。一方、水分などによって電気が流れやすい状態になると、絶縁抵抗が低下します。つまり、SIRの低下は、電子基板の絶縁状態が悪化している可能性を示す指標となります。ただし、SIRが低下したことと、実際に不可逆的な短絡故障が発生したことは、必ずしも同じではありません。試験では、結露量を変えながらSIRを継続的に測定し、その変化を評価しています。
5. 結露が発生しても、すぐに故障しないのはなぜか?
水滴があっても、必ずしも電気の通り道になるわけではない

PCBAに水滴が付くと、どんな見え方になる?
水滴は、均一な水膜ではなく、小さな粒として付く場合があります。
説明用イメージ
この研究で特に興味深いのが、結露が発生しても、必ずしもすぐにECMによる故障が起こるわけではないという結果です。なぜでしょうか。その理由の一つとして考えられているのが、水の「表面張力」です。例えば、テーブルに少量の水を垂らすと、水は必ずしも均一に広がらず、小さな丸い水滴になることがあります。電子基板の表面でも同じような現象が起こります。小さな水滴がいくつも存在していても、それぞれが離れている場合、隣り合う金属配線を連続した水の経路でつなぐとは限りません。
一方、水滴の量が増えたり、複数の水滴がつながったりすると、配線間に水の経路が形成される可能性が高くなります。つまり、「基板に水滴があること」と「隣り合う配線が水によってつながっていること」は、同じではないのです。もちろん、水滴がつながったからといって必ずECMが発生するわけでもありません。実際の故障には、電圧、金属の電気化学反応、時間などが関係します。このように、水滴の形状や分布も、故障リスクを考えるうえで重要な要素となります。
部品の形状によって、結露への耐性が変わる
電子基板には、さまざまな形状の電子部品が実装されています。例えば、QFP(Quad Flat Package)は、部品の周囲に金属製のリード端子が露出している半導体パッケージです。一方、BGA(Ball Grid Array)は、部品の下面に多数のはんだボールを配置したパッケージです。
端子の位置が違うと、水分の届き方も変わる
QFP:端子が外側に露出
試験では比較的影響を受けやすい
BGA:端子が部品の下面
試験では比較的高い耐性
下面電極部品の耐性は、研究条件での相対的な結果です。
これらの部品では、結露が発生したときの水分の付き方が異なります。試験では、露出したリードを持つQFPが比較的影響を受けやすい一方、BGAのような下面電極部品は比較的高い耐性を示しました。その理由として、部品本体が傘のように働き、端子のある下面への結露の広がり方が変化する可能性が説明されています。つまり、同じ量の水分が存在していても、部品の構造によって絶縁性能への影響が異なる場合があります。ただし、すべてのBGAが結露に対して安全という意味ではありません。
実際の耐性は、部品構造や実装条件、表面状態などによっても異なります。
192時間の試験では何がわかったのか?
結露量を低いレベルに維持した状態で、長時間の試験も行われています。レベル1では192時間、レベル2では102時間の評価が実施されました。
192時間の評価でも、構造によって観測結果は異なる
| 試験構造 | 観測されたこと |
|---|---|
| BGA1.0 |
192時間の評価終了まで、閾値に到達しなかった この試験での抵抗低下時刻は未観測 |
| QFPlead |
192時間の評価終了まで、閾値に到達しなかった この試験での抵抗低下時刻は未観測 |
| THT0.7 |
1.42時間で閾値に到達した 局所的な温度低下(コールドスポット)の影響が記されている |
出典:Bosch P23、PCB-No.6V(B2/F/1x low)の3構造を抜粋。192時間は試験の終了時点で、故障時刻ではありません。SIR閾値への到達と、ECM短絡の確認も区別します。
レベル1は、基板表面の温度が露点とほぼ同じになるような、比較的弱い結露負荷です。この条件では、多くの試験パターンが長時間にわたって良好な絶縁性能を維持しました。一方、特定のめっきスルーホール構造では、局所的な温度低下によって早期に絶縁抵抗が低下する結果も確認されています。レベル2でも同様に、部品や配線構造によって結果に差が見られました。ここで重要なのは、192時間という長時間でも良好な結果を示した構造がある一方、すべての構造が同じように耐えたわけではないということです。
結露の危険性は、水分量だけではなく、部品や基板の構造、局所的な温度条件にも左右されることがわかります。
印加電圧が高いほど、必ず厳しい試験になるわけではない
もう一つ興味深い結果があります。
一部の試験条件では、印加電圧が低いときの方が、SIRの値が低くなる傾向が確認されました。一般的には、高い電圧をかけた方が絶縁材料にとって厳しい条件になると思われがちです。しかし、電気化学的な現象では、電圧と絶縁抵抗の関係が必ずしも単純ではない場合があります。
資料では、この現象を「高電圧による擬似的な堅牢性」と表現しています。ただし、これは高電圧の方が安全だという意味ではありません。特定の試験条件で観察されたSIRの挙動であり、高電圧による放電など、別の故障リスクとは区別して考える必要があります。
6. 水滴の発生から、故障リスクを予測する
水滴がつながる確率を計算する
結露の危険性をより正確に評価するために、電子基板上に形成される水滴の分布を数学的に扱う方法も検討されています。例えば、同じ量の水分が付着した場合でも、水滴がどこに、どのくらいの大きさで形成されるかは毎回異なります。小さな水滴が離れて存在する場合もあれば、隣同士の水滴がつながり、大きな水の経路を形成する場合もあります。こうした現象を予測するために用いられるのが「パーコレーションモデル」です。
水滴が合体すると、一つながりの水の領域になる
つながらない配置の例
合体してつながった水の領域
説明用の概念図です。Boschの実測分布・計算結果ではありません。
名前は少し難しいですが、考え方はシンプルです。例えば、雨上がりの地面に小さな水たまりがいくつもある状態を想像してください。最初は水たまりが離れていますが、雨が増えると、隣り合う水たまりがつながり始めます。さらに水が増えると、離れた場所まで連続した水の経路ができることがあります。電子基板上の水滴についても、同じような考え方ができます。水滴の量や大きさ、配置から、離れた2つの導体が連続した水の経路によってつながる可能性を予測するのです。
モンテカルロシミュレーションとは?
配置を変えて何度も計算し、水の経路ができるか調べる

計算方法を理解するための概念図です。試行回数や連結確率を示す実験・シミュレーション結果ではありません。
水滴が形成される場所や大きさには、ばらつきがあります。そこで利用されるのが「モンテカルロシミュレーション」という計算方法です。これは、ランダムに変化する条件をコンピューター上で何度も再現し、ある現象がどの程度の頻度で発生するかを調べる方法です。例えば、同じ水分量でも、水滴の位置や大きさを変えながら多数の計算を行います。その結果から、隣り合う配線の間に連続した水の経路が形成される確率を推定します。研究では、こうした統計的な手法を使い、結露量や基板レイアウトに応じた電気化学的な故障リスクの予測を試みています。
実使用環境から、故障リスクの評価へ
01
環境を測る
02
量と時間を求める
03
つながりを予測
04
リスクを評価
水でつながる確率を、そのままECM故障確率に置き換えることはできません。
さらに、ECU内部の温度分布や放熱状態を組み合わせることで、実際の使用環境に近い条件でリスクを評価することも想定されています。ただし、水の経路が形成される確率と、実際にECMによる故障が発生する確率は同じではありません。水のつながり方に加えて、電圧や金属の反応なども考える必要があります。
7. なぜ結露を定量的に評価することが重要なのか?
これまで、電子基板の結露は避けるべき現象として扱われてきました。もちろん、結露が電子機器の故障につながる可能性があることは変わりません。しかし、今回の研究では、結露が発生しても、実際の故障リスクは水分量、持続時間、部品構造、印加電圧、局所的な温度条件などによって変わることが示されています。
つまり、結露を単純に「発生した」「発生していない」の二つだけで評価するのでは不十分な場合があります。例えば、わずかな水滴が数分間だけ存在する場合と、大量の水分が長時間付着する場合では、電子基板に与える影響が異なる可能性があります。また、同じ水分量であっても、配線間隔や部品形状が違えば、絶縁性能への影響が変わることもあります。
こうした違いを数値として評価できれば、実際の使用環境を考慮した信頼性設計や、より合理的な試験条件の検討につながります。ただし、この研究結果だけで、既存の信頼性試験や品質要求を省略できるわけではありません。規格で定められた試験要求と、実際の使用環境に基づくリスク予測は、それぞれの目的に応じて考える必要があります。
まとめ:結露の有無ではなく、故障につながる条件を理解する
電子機器にとって水分が重要な故障要因であることは変わりません。しかし、結露が発生したからといって、必ずしも直ちに電子機器が故障するわけではありません。今回の講演では、その理由を実際の使用環境の測定、結露量を制御した試験、統計的なシミュレーションなどを通じて説明しています。特に重要なポイントは、次の4つです。
1. 結露が発生しても、すぐに故障するとは限らない
少量の水滴が付着していても、導体間に連続した水の経路が形成されていない場合があります。
2. 結露による故障には複数のメカニズムがある
基板表面で発生するECM、基板内部で進行するCAF、高電圧によるフラッシュオーバーなど、異なる故障現象を区別する必要があります。
3. 水分量だけでなく、持続時間や部品構造も重要
同じ結露条件でも、部品形状、配線間隔、局所的な温度、印加電圧によって、絶縁性能への影響が異なる場合があります。
4. 定量的な評価によって、より合理的な信頼性設計につながる
結露の量、時間、水滴の分布、基板構造などを組み合わせることで、実際の故障リスクをより具体的に予測する研究が進められています。
今回の研究が示しているのは、「電子基板が濡れたかどうか」ではなく、「どの程度の水分が、どのような条件で故障につながるのか」を理解することの重要性です。自動車の電動化や電子機器の高性能化が進むなかで、実際の使用環境を考慮した信頼性評価は、今後ますます重要になると考えられます。
参考資料
Robert Bosch GmbH — Mobility Electronics
「結露は必ずしも故障を意味しない:電子制御ユニットの耐結露性に関する定量的手法」
Automotive Nagoya 2026 講演資料(2026年9月版)
講演者:Dr. Lothar Henneken、Dr. Udo Welzel
※本記事は講演内容をもとに、一般読者向けの技術解説として再構成したものです。試験条件、測定結果、シミュレーションによる予測は、それぞれの研究条件に基づいています。すべての電子機器や使用環境に同じ結果が当てはまることを示すものではありません。
図版・数値について
- ECU画像は独自制作の説明用イメージです。水滴付きPCBA、コップ、デンドライト、CAF、フラッシュオーバーの画像にはAI生成イメージを使用しています。Boschの実写や測定試料を示すものではありません。
- 本文中の線画は独自制作の模式図です。寸法・水滴の大きさ・反応時間は縮尺を表しません。ECMは表面、CAFは基板内部の界面に沿う現象として区別しています。
- 結露量チャートはP18、SIR閾値への到達時間の比較はP23によります。各図の条件を確認してください。1mg/cm²・10分間は研究シナリオであり、安全限界ではありません。
- 「参照元」の引用画像は、原PDFの各ページ全体をそのままレンダリングしたものです。切り抜き・書き換え・ロゴや注記の削除はしていません。

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