APEX EXPO 2026レポート| IPC車載委員会

2026年03月31日
技術コラム

IPC車載委員会レポート

APEX EXPO 2026|IPC自動車・車載追加規格 技術委員会レポート(001/610)

IPC車載委員会の様子

APEX EXPO 2026において開催されたJ-STD-001およびIPC-A-610の車載用追加規格の委員会では、次期KA版への改訂に向けた技術議論が行われました。

ベースドキュメント委員会が「規格全体の構造と思想」を扱っていたのに対し、本委員会ではより実務に近い視点から、車載量産環境における現実と規格とのギャップが議論の中心となりました。

特に特徴的だったのは、単なる厳格化ではなく、機能・信頼性を軸にした“現実適合型の基準再設計”が明確に志向されている点です。

なお、本会議では日本の自動車タスクグループからも積極的な提案が行われました。

1. ミーリングエッジ品質:外観基準から機能基準へ

車載分野特有の議論として最も象徴的だったのが、基板エッジの加工品質に関する見直しです。

従来のIPC基準では、「ニック(nick)」や「ハロイング(hollowing)」といった欠陥の定義が存在します。しかし、これらは主に外観的な評価に依存しており、実際の量産現場との乖離が指摘されていました。

特に自動車用途では、高速ミーリングによるエッジの欠けや繊維露出は一般的に発生する一方で、それが直接的なフィールド故障につながった事例は確認されていません

このため今回の議論では、外観の美観ではなく、電気的・機械的機能への影響を基準とする評価体系への移行が提案されました。

技術的には、材料除去の有無、欠陥の深さや範囲、FR-4繊維の突出などを定量的に扱う必要性が指摘されており、従来の曖昧な定義からの脱却が求められています。

また、ミーリングだけでなく、Vカットやレーザー加工など、工法ごとの欠陥様態の違いも考慮すべき論点として挙げられました。

このテーマについては、専門ワーキンググループを設置し、定義と図版の再構築を進める方向で整理されています。

2. はんだの部品本体接触に関する基準について

はんだが部品本体(モールド樹脂など)に接触する現象については、日本グループからの提案として議論が行われました。

IPC-A-610ではSOICなどの一部のパッケージ部品においては、条件付きで許容されています。また、小型部品についても許容可能とされる記述がありますが、その「小さい」という定義が明確に規定されていない点が課題として指摘されました。

この曖昧さにより、設計・製造・検査の各現場で解釈のばらつきが生じる可能性があり、規格としての一貫性や再現性に影響を与える懸念があります。

一方で、パッケージサイズや構造によっては、はんだの接触が信頼性に影響を与える可能性も否定できません。

現在、日本において東海理化およびトヨタ自動車などが中心となり、複数の部品および条件に基づく信頼性評価が進められています。今後は、これらの検証結果を踏まえた上で、許容範囲や条件の明確化について委員会で議論が行われる予定です。

委員会での議論の様子

3. Intrusive Soldering:Pin in Paste工法に関する図解の明確化

Intrusive Solderingについては、日本グループからの提案として図解および表現の明確化が議論されました。

Intrusive Solderingは、いわゆるPin in Pasteとも呼ばれる工法であり、ペーストはんだを用いてスルーホール部品を実装するはんだ付け方法です。これまでのはんだ付けロボット工法やセレクティブとははんだ供給面が異なり、はんだフィレットができにくいという特徴もあります。

今回の論点は、この工法自体の是非ではありません。J-STD-001における図解や用語の表現が十分に明確ではなく、特に「はんだ供給面」の解釈に混乱が生じやすい点が問題として挙げられました。

日本グループからは、Pin in Pasteによるスルーホールはんだ付けの実態に即して、より分かりやすい図や注記を追加すべきとの提案がなされました。

委員会ではこの問題意識自体には理解が示されましたが、車載分野固有の課題というよりはベースドキュメント側で整理すべき内容と判断され、Automotive AddendumではなくIPC-A-610本体への提案として扱う方向で整理されました。

4. イオン汚染評価:固定閾値への強い否定

清浄度評価に関する議論では、ROSE試験とイオンクロマトグラフィー(IC)の使い分けを巡り、業界全体の構造的課題が浮き彫りになりました。

ある参加者から、顧客によりROSE試験の使用を禁止され、ICの使用を要求された事例が共有されたことをきっかけに、議論は大きく展開しました。

ROSE試験は再現性に課題がある一方で、工程管理には有効であり、日常的なモニタリングに適しています。一方、ICは汚染物質の特定が可能ですが、設備コストが高く、また業界として統一された許容基準が存在しません。

問題の本質は、こうした技術的な違い以上に、OEMが一律の固定閾値を要求する傾向にある点です。これに対し、委員会では「すべての製品に単一の閾値を適用するのは工学ではなく宗教である」という強い表現で批判がなされました。

結論としては、J-STD-001が採用する「プロセス認定(QMP)に基づく評価」を維持し、ROSEを基本としつつICは補助的に用いるという方針が再確認されました。

この議論は、車載分野に限らず、今後の品質保証の在り方に直結する重要なテーマです。なお、ホワイトペーパー「IPC-WP-019A:イオン性清浄度要件における、国際的な見直しの概要」では、ROSEを信頼性評価の試験方法から除外した背景が説明されています。

イオン汚染評価に関するイメージ

5. 高信頼はんだ合金とボイド:評価指標の再定義

はんだ材料に関する議論では、高信頼性用途で使用される低銀系合金などにおいて、ボイド(空隙)が増加する一方で、機械的信頼性は確保されるケースがあることが共有されました。

従来はボイド率を単純な閾値で評価することが一般的でしたが、このアプローチでは材料選定の自由度を不必要に制限してしまう可能性があります。

そのため今回の議論では、ボイド率そのものではなく、熱機械疲労などの実際の信頼性指標に基づく評価の必要性が指摘されました。

加えて、AEC-Q007などの信頼性試験規格は存在するものの、これらはあくまで試験手法を規定するものであり、どの合金を選定すべきかという判断基準までは示していない点も課題として共有されました。

つまり、評価方法はあっても、材料選定の指針としてはなお標準化の余地が残されているということです。これは、単一パラメータによる合否判定から、複数要因を考慮した評価への転換を意味しています。

なお、AECドキュメントの参照先も提供されました。

6. 総括:Automotive Addendum(車載用途追加規格)が示す方向性

今回の7-31BVの本会議では、車載分野が単なる要求追加、すなわち「より厳しくしていく」方向ではなく、量産現場と信頼性の両立を前提に、規格の実用性と合理性を問い直す役割を担っていることが示されました。

エッジ品質、はんだの部品本体接触、清浄度、ボイドといった論点はいずれも、外観や単一条件ではなく、機能・信頼性・工程実態に基づいて評価すべきであると議論されました。

一方で、これらは現時点で確定した基準ではありません。日本グループの提案も含め、今後の信頼性評価や検証データを踏まえ、委員会での議論と投票を通じて整理されていきます。

Automotive Addendum Groupは、こうした実証に基づき、車載用途に求められる実用的かつ工学的に妥当な基準を形づくる場でもあります。

また、日本では車載追加規格に関する委員会活動が積極的に行われており、今回も日本グループから具体的な提案がなされました。IPCの委員会は、特定の企業だけに開かれたものではなく、企業・個人を問わず誰でも無償で参加できます。

限られた企業のみが主導する従来の枠組みとは異なり、IPCはオープンな議論と合意形成を通じて、国際標準の民主化を志向しています。

IPC標準への変更提案や問題意識を持つ企業・個人には、委員会への積極的な参加を強く推奨します。参加方法や詳細については、弊社ジャパンユニックスまでお問い合わせください。

国際標準化活動のイメージ

資料ダウンロード
これまでに日本語に翻訳されている主要なIPC標準規格の無料版やトヨタ自動車、オムロン、アドバンテスト、GMなど各社がIPCを導入した理由や効果などの事例インタビューを入手可能です。

参考動画

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