アドバンテック直方

「日本初のIPC監査認証取得」アドバンテックの挑戦

advantech

認証を通じて得られたものとは?

アドバンテック株式会社(直方工場)は、日本初のIPC工場監査認証を取得しました。なぜIPC監査認証取得に至ったのか、取得前後の変化や、今後の展望などを、認証取得をリードした、サービス統括本部 生産技術G 大弓哲男マネージャーに話を聞きました。

社名 アドバンテック株式会社(Advantech Japan Co.,ltd.)
創立 1966年創業、2019年設立※1
売上高 非公開
従業員数 非公開
事業内容 IoTソリューション、製品の販売/プリント基板の設計、製造、実装組立DMS(受託設計製造)/EMS(受託製造)等

※1 アドバンテック直方工場の設立日。詳細は本文参照

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IPC監査認証取得に取り組んだきっかけ

アドバンテック株式会社直方事業所 大弓哲男マネージャー

     

アドバンテック株式会社について

アドバンテックは、台湾が本社の40年以上の歴史を誇る電子機器メーカーです。産業用PCを中心に、エッジデバイスを含む幅広い製品をグローバルに提供しています。

直方事業所は、オムロン直方株式会社として1966年に創業し、2019年にアドバンテックグループの一員となりました。オムロン時代に培われた設計・製造ノウハウに加え、グローバルなアドバンテックグループの最先端IoTソリューションと商材、それによる知見を生かしたDMS(受託設計・製造サービス)を提供しています。IPC工場認定を受けた「ものづくり力」が当社の強みで、品質と信頼性において圧倒的な実績を誇り、お客様や社会に貢献していくことが私たちの目指す姿です。

IPC監査認証取得に取り組んだきっかけ

なぜ、IPC監査認証の取得に取り組まれたのでしょうか?

日本国内の多くのメーカーは独自の高品質・高信頼基準を掲げ、「Made In Japan」を付加価値として世界に製品を輸出しています。当社も以前から、「IPC-A-610」を出来栄えの品質基準として採用し、自社基準にも取り入れてきました。しかし、海外メーカーの競争力が高まる中、各社独自の基準だけでは品質を証明・訴求するのが難しくなっています。そこで、私たちはIPC監査認証の中でも最も厳しい「クラス3」の認証を取得することで、お客様との取引開始前にも安心感と信頼を提供できると考えました。

日本における第一号のIPC工場認証を取得しました

日本においてIPCの監査制度が整備されていない時期から、日本のIPC事務局であるジャパンユニックス様と連携し、「我々と一緒にIPCの監査プログラムを整備しませんか?」という提案から取り組みを始めました。

業界規格であるIPCからANSI、ISO、JISなどの他の規格に展開されていく流れがあるのですが、その展開には時間がかかります。認証取得の検討を進める中で、エレクトロニクス市場における日々の進化に迅速に対応するためには、IPCが最適な規格であるとの確信が生まれました。そして、この第一号認証を取得することが、私たちのものづくりが国内の実装業界をリードしていくことにつながると考えたのです。

IPC監査に向けた取り組み 事前準備と当日対応

IPC監査に向けた取り組みについて教えてください

多くの会社が謳う「“IPCに準じた出来栄え”の製品製造」と「“IPC監査認証”に合格できる製品製造」では、「高品質な製品を生産する仕組み」の有無において大きな違いがあります。そのため、IPCの製品クラス3に適合させるために、1年かけて実装技術の改善に取り組み、続いて、外観検査基準を含む社内基準の改訂に取り組みました。

また、ジャパンユニックスの皆様やSMT工程、DIP工程、品質管理など製造プロセスを担う部門に全面的な協力を頂き、社内基準の改訂と同時に社内でプロジェクトチームを立ち上げました。各部署のメンバーが、IPCスペシャリスト(CIS)の資格を取得し、メンバーと共に体制を整えていきました。各人が精通した工程だけではなく、CISの取得を通じて全工程を理解し、相互理解が急速に進展しました。

監査当日について教えてください

事業所内に掲げられたIPCの認定証

監査は3日間にわたり、工場の全てのプロセスで細部に至るまで丹念に実施されました。実際の運用がIPCの要件に適合しているか、各種管理条件に関するエビデンスと根拠がしっかり把握されているかが主な焦点です。監査では、書類や規定の確認だけでなく、オペレータの方々に実際の作業やヒアリングを行うなど、日常の業務の様子を直接監査する貴重な機会となりました。

監査内容でユニークだと思った点や、気づいた点はありますか?

ユニークな点は、徹底した現場主義です。他の認証制度や監査制度は、取得が「目的」となりがちですが、IPCの工場監査プログラムは、より良いものづくりのための「スタート」という位置づけです。他に改善できることがないかを探し、それを追求していくという考え方で、認証を受けてからも改善を続けていくことが重要だと感じています。

また、監査の「統計的品質管理」という項目では、品質データを共有しながら議論を行った結果、自社の品質がグローバルでも十分通用するということが分かり、自信になりました。この様にインプットもいただけるのは非常にプラスになりましたし、自分たちの現在地が見える化できたことは非常に重要です。監査を通じて、過去に作ったしくみが形骸化せずに運用されているかを、しっかり見直す良い機会にもなりました。

監査で見えた短・長期の課題と自己変化

実際に指摘されて改善した課題はありますか?

IPCの項目のひとつに「静電気(ESD)対策」があり、静電気計測器で計測した結果、基準に満たない箇所がいくつか見つかりました。これまでも定期点検は行っていましたが、この機会に社内で再度議論し、静電気対策や測定箇所、確認方法などを見直し、生産部門の責任者も交えて社内ルールを見直しました。その結果、工程全体の対策レベルを向上させることができました。

長期視点で浮かびあがった課題

アドバンテック工場エントランスにて

自社で完結する内容は比較的迅速に対処できますが、取引先が関わる内容は時間がかかります。一例が、高密度化に伴い湿度の影響度が大きくなっているプリント配線板(PWB)の納入形態で、私たちはこの仕組み構築に取引先と共同で取り組んでいます。IPCでは、PWBの納入方法に関して、袋や乾燥剤、湿度インジケーターカード(MIC)の封入などについて細かい基準が示されています。日本のメーカーは、PWBの製造技術そのものは非常に高度ですが、納入形態に関しては、独自基準または国内基準に基づいていることが一般的です。これは、万が一工程内で問題が発生した際に原因を切り分ける上でも有益です。

IPC監査の活用について

監査を受けての変化はありましたか?

IPC監査認証取得の中心メンバー

EMS(受託製造サービス)やDMS(受託設計・製造サービス)における、IPCの定義にそった仕様提案が挙げられます。例えば、製品の信頼性を高めるために行うコンフォーマルコーティングでは厚みがある程、耐環境性は向上しますが、放熱性の低下やコーティング被膜の割れといったデメリットも生じ、かつ製造コストも高くなります。しかし、IPCというグローバル基準に照らし合わせることで、最適な仕様提案が可能になりました。

また、組織全体でも各プロセスや作業者レベルにIPCが徐々に浸透し始めていると感じます。指摘された是正箇所についても、真因を究明し、適切な対策を考えることで、組織として成長できたと実感しています。さらに、IPCを社内に定着させることで、製品品質の向上に貢献することが期待されます。

IPC監査認証を取得するメリット

直方事業所の実装ライン

間違いなく、IPC監査は自社の実力向上につながります。IPCが規定する領域は幅広く、監査を通じて自社の強みや補強すべき点が明確になります。これらすべてに対して、IPCの推奨事項に従った対応や、エビデンスを提供してその目的を達成する代替条件の策定が可能です。これは、社内の規定やマニュアルを整理する良い機会にもなります。

また、お客様の視点でみると、実装メーカーのレベルは実際に取引をしてみないとわかりにくいものです。しかし、IPCの工場認定を取得したことで、お客様は取引前から私たちの能力を把握できるようになります。さらに、自社の独自基準ではなく、オープンなIPC基準のため、安心・信頼を提供できる指標になると考えています。これにより、初めてのお客様でも安心して取引を始めることができ、信頼を築く上での重要な要素となるでしょう。

今後IPC監査を検討される企業に向けたメッセージ

IPC監査を受けるための注意点

対象範囲が広く、ボリュームが多いため“何のためにIPC監査を受けるのか”の本質を見失わないことが重要です。例えば、IPCには電子機器の組立品やはんだ付工程に関する「IPC-A-610」や「IPC J-STD-001」といった規格がありますが、それ以外にも多くのプロセスにおいて体系化された基準が存在し、そのボリュームは膨大です。これらの基準を理解し、遵守するだけでなく、内容を理解し、自社の考えを持って体系化していくことが極めて重要です。

「IPC監査認証取得」は、自社を目指すべき状態に近づける手段にすぎません。自社基準ではなく、グローバルで共通言語である「IPC」を効果的に活用して、電子機器業界を再び日本がリードしていく姿を共に実現していきましょう。

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